オリジナルの時計に使用されているムーブメントは、ヴァシュロンのアーカイブでは単にキャリバー・ヌーボーと呼ばれているが、これは11リーニュ(リーニュとは何であるか疑問に思っている方は、もう悩まなくていい)の手巻きムーブメントだ。これは昔ながらの魅力が満載だ。メインブリッジは曲線ではなく棒状で、内側には美しいシャープな角があり、18世紀半ばにレピーヌがブリッジムーブメントを発明して以来、高級時計製造には欠かせないクリーンで論理的なシンプルなレイアウトになっている。このムーブメントを構成する全ての可動部品は、1920年代に製造されたニューオールドストックパーツだ。輪列、香箱、ピニオン、そしてもちろん脱進機、テンプ、ブルースティール製のブレゲヒゲゼンマイも含まれている。
カスタムメイドのムーブメントホルダーに収められたアメリカン 1921 ユニークピースのムーブメント。
手間のかかるアナクロニズムが好きな方には非常に刺激的なテンプ、カットされたバイメタル製の温度補正テンプだ。現在のヒゲゼンマイは、温度が変わっても弾性が大きく変化しない素材で構成されている。しかし、普通のスティール製のヒゲゼンマイは、温度の下降や上昇で、硬さが変化して、時計の動きが速くなったり遅くなったりする。バイメタルテンプは、真鍮とスティールの2枚の薄板でできており、温度の変化に応じて実際に直径が大きくなったり小さくなったりすることで、ヒゲゼンマイの弾性の変化を補っている。そのため、“補正テンプ”と呼ばれるのだ。
プレートとブリッジは、時計全体の中で唯一、現代の製造方法で作られた部品だ。どちらもジャーマンシルバーを使用し、多軸コンピュータ制御の旋盤で加工されている。オーデマピゲ グリント理由は、スムーズで信頼性の高い動作のために、重要な寸法を仕様内に収めるという現実的なものだ。ジュネーブストライプがないことに気づくだろう。これは、オリジナルのムーブメントにもジュネーブストライプが使用されていなかったからである。よく見ると、テンプの軸に耐震装置がないことにも気がつくはずだ。これも当時の仕様だ(ただし、時計の取り扱いには注意が必要だ。耐震装置のない懐中時計を硬い場所に15センチほど落とすと、テンプの軸が曲がったり壊れたりするだろう)。
輪列の中の歯車のピニオン。ルビーなど宝石のベアリングに収まる。
ムーブメントの中にテンプを入れる様子。
ヴァシュロンが特に苦労したのは、テンプと輪列のための受け石をセッティングすることだった。一般的に受け石のセッティングは機械で行い、ムーブメントに開けられた穴に摩擦力ではめ込んでいく。手作業で受け石をセッティングする場合は、もう少し手間がかかる。時計メーカーが理想とするのは、歯車の軸が自由に回転し、なおかつ余計な動きをしないように公差を確保する、いわゆる“自由でありながらブレない”という寸法だ。これは時計製造における最も基本的な課題の一つである。まさに正確にフィットしていれば、動きを止めるのに十分な摩擦が生じるが、緩すぎると計時の精度が低下してしまう。
ムーブメントプレートとブリッジにセットする準備ができたニューオールドストックの受け石。
受け石のセッティング。
アメリカン 1921 ユニークピースでは、まずステーキングツールと呼ばれる器具を使って受け石を押し込む。その後、受け石の周りの金属を持ち上げて固定することで、受け石のセッティングが完了する。これは、ジュエリーに宝石をセットする技術と同様のプロセスだ。地板とブリッジの受け石用の穴は、18世紀に開発された直立型のドリルを使って開けられた。
ムーブメントのセンターブリッジ。2番、3番、4番車のための受け石がある。
オールドストックのガンギ車を収めた小瓶。
歯車とピニオンは、アーカイブされたオリジナルパーツだ。“歯車”とは直径の大きいギアのことで、ピニオンとは直径の大きいギアと同じ軸上にある小さいギアのことだ - 歯車がピニオンを駆動することで、これは、輪列の各歯車が前の歯車よりも速く回転することを意味する。このムーブメントの個々の歯車の歯は、18世紀の“丸め”(または“トッピング”)工具を使って成形・研磨されている。また、ブリッジ側面の研磨、エッジの面取りと研磨、エングレービングなど、ムーブメントの装飾も全て手作業で行われた。
【関連記事】:いくつかのグローバルな高級品と関連ニュースを推奨